悠久の片隅

日々の記録

預言者

預言者 The Prophet

預言者 The Prophet

愛について


愛に差し招かれたら、したがえばいい。

けれど、その道は厳しく険しい。

愛の翼につつまれたなら、身をゆだねればいい。

けれど、羽に隠れた短剣で傷つくこともある。

愛が語りかけてきたら、信じればいい。

けれどその声が、庭を荒らす北風のように、夢をこなごなにすることもある。

愛は、人を王にもするが、十字架にもかける。育てもするが刈り込みもする。

高い枝に登り、こずえの先の、陽を浴びてふるえる細い枝をなでたかと思うと、

駆け下りて、大地に張った根をゆさぶる。

愛は、麦をあつかうように、人を刈り取って束にする。

さおで打って殻をはがす。

ふるいにかけて、もみ殻をとる。

臼でひいて白い粉にする。

水でねって柔らかくする。

そうして聖なる火にくべて、聖なるパンを焼き、神の聖なる食卓にのせる。


愛はこのすべてをする。

そうして人は、自分の心の秘密を知る。

知ることで、大いなる生命の心の、小さな一片となる。

それが怖くて、愛の平和と喜びだけを望むなら、殻をはがれた体をなにかで隠し、

愛の麦打ち場を飛び出して、季節のない世界へ行けばいい。

笑っても心の底からは笑えない世界、泣いてもほんとうの涙は流れない、そんな世界へ行けばいい。


愛は自分自身をあたえるだけ。ほかに何もあたえず、なにも奪わない。

なにも自分のものにせず、誰のものにもならない。

愛は、愛だけでこと足りている。

自分で愛のゆくえを決められると思ってはいけない。

その価値のある人なら、愛のほうがゆくえを定めてくれる。


愛は、愛が成就する以外、なにも望まない。

けれどもし誰かを、なにかを愛して、どうしても何かを望みたいときは、

こんなことを望むようにしよう

この身が溶けて、せせらぎのようになって、夜のあいだも歌い続けることを。

優しすぎることの痛みを知ることを。

愛を自己勝手に理解して傷つき、

それでも、みずから喜んで血を流すことを。

夜明けには、翼を持った心で目を覚まし、また愛する一日が始まることに感謝することを。

昼下がりには、安らぎながら、愛の恍惚を思い浮かべることを。

夕暮れには、感謝の心で家に帰ることを。

そして寝るときには、愛する者への祈りが心に、そして賛美の歌が唇にあることを。