悠久の片隅

日々の記録

<a href="http://ameblo.jp/fujiko-diary/entry-11206102762.html">生きがい</a>

神谷美恵子日記 (角川文庫)/神谷 美恵子

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読了。

正直、この本だけではこの人を感じるには足りない。

それでも彼女の心の叫び声は伝わってくる。

彼女をもっともっと知りたくなってネットで情報収拾。便利な世の中になりました。

「いつでも何かに向かって泣きそうな努力を重ねてきた」

才能溢れる彼女から零れ落ちた言葉。

この言葉だけで1つの作品になりうるほどの衝撃を受けた。

彼女は文学が好きで

いつも「書きたい・・・書きたい・・・」という思いに駆られていた。

でも自分には『医者』になるという使命がある。

それはもう『なりたい』とかの意志ではなく、

医師になり人に愛を与えることでしか自分を確立できないような境地。

父親は娘(美恵子)に、外交官の妻にでもなって、芸術に勤しむようなそんな生活を望んだが、

彼女はそんな場(楽な人生)に身を置くことなど、

「自分の存在意義に価しない=生きるに価しない」そんな風に捉えていたように感じられる。

彼女は自分の環境や才能に常に感謝をしつつ、念願の医者(精神科)になる。

そして結婚、2人の子供をもうける。

それからの十年は、子育て、そして家計を支える為に意にそぐわない語学教師の仕事をする。

妻として母としてその幸福に日々感謝しながらも

自分のやりたい事が時間的にも体力的にも無理なことへのジレンマ。

それを彼女はこう綴っている

8月27日

毎日英文直しをしているといらいらして自殺をしたくなる。

人生とはしたくないことをする場なのだろうか。

いつまで語学の先生をしなくてはならないのか。

語学よ、汝は私の呪いだ。

完璧主義者の彼女は子育ても語学の仕事も建設的に妥協を許さず取り組んだ。

でもそれは

「いつでも何かに向かって泣きそうな努力を重ねてきた」

そうして手にした医学の道とはかけ離れたもの。

溢れる文学の情熱までも抑制し、必死になってこの手に掴もうとした場所に辿り着けないもどかしさ。

私が意外に思うのは、

才能多き女性は、独身を通すことが多いのに彼女は例外かな。

自分にとって生きていく上で絶対的な使命(医者)を人生の何よりも優先させるかと思いきや、

家庭をもち、子育てに専念する。

ご主人は生物学者(単身赴任)。

多分稼ぎより、研究に費やす費用の方が多かったのではないかと思われる。

ご主人(家計)を支え、わが子の病気療養にかかる多大な医療費の捻出も彼女にかかっていく。

お金と地位をかなぐり捨て、人としての本分(医者)を全うしたい思いに、現実が常に立ちはだかる。

しかし

自由を得る道は、決して現在の束縛から逃げ出す事ではない。

そこにふみとどまり、あらんかぎりの智慧と力をしぼって努力をし、

束縛を束縛でなくしてしまう事だ。

束縛を手なずけて、踏み台としてしまう事だ。

私は毎日をかしこくかしこく生きて何とかしてあまりモーロクする以前に目的を達せねばならない。

私でなくてはできない精神医学上の仕事を果たさなくてはならない。

彼女は大学教授にまでなるが

(私は大学教授になるために必死に生きてきたわけではなかったはずだ・・・)

そんな虚しさも感じずにはいられなかったと思う。

何故そこまで苦しんで生きていってしまうのか

その才能を羨ましくも、悲しくも思う・・・・

子育てと語学に忙殺された10年、

その後、彼女はご主人の愛にも支えられ、経済的にも許され、ようやく自分の進むべき道、

長島愛生園(ハンセン病療養所)に職を得る。

美恵子さん43歳。

その仕事こそ

彼女が19歳の時に願った仕事だった。

25年、四半世紀かけてようやく自分の生きたい場所に辿り着くことが出来た。

でもそれ以前に彼女はガンを患い(完治)、

生命あるうちに、この十年間の溜めに溜めた胸の内を学問と芸術で放出したい思いに駆られる。

「書きたい・・・」

執筆を始める作業は苦しくて、苦しくて

「いっそうのこと、自分の血で書きたい・・・」とまで言う。

なんでこの人はいつも苦しんで、苦しんで何かに向かっていくのだろう。

目指すものは献身の愛(愛生園)ではなかったのかな。

そこに身を置いてめでたし、めでたしにならないのかな。

常に高い目標無しでは生きられない人。

7年の歳月をかけ「生きがいについて」という作品を書き上げるが、

20代の頃から日記に「書きたい・・・書きたい・・・」と言ってたことを思い起こせば、

この人は30年かけて「生きがいについて」という作品を書き上げたように思う。

生きがいについて (神谷美恵子コレクション)/神谷 美恵子

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