悠久の片隅

日々の記録

潤い

 霧のむこうに住みたい (河出文庫)/須賀 敦子

¥594
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私の心はともすると固くなる。

土は空気と水を与えないと枯れて固くなり、草花も上手く育たない。

私の心も気をつけないと、すぐ冷えて凍ってしまう。

『愛』とか『情熱』とかからどんどん遠ざかっていく。

なるべくそうならないように私は書店に足を運ぶのだと思う。

須賀敦子の文体は簡素。

でも、

その分、行間がより深くて、

本を読んでいる時間より、

本から目を離し、見たこともないイタリアの光景や会ったこともない人々に

あれこれ心巡らせている時間の方が長くて楽しい。

きっと見当違いの風景だったり人間像だったりするのでしょうけど、

読む人がそれぞれの世界を思い描ける本っていいなって思う。

霧吹きで感情のヒダヒダの奥までほどよく水分が行き渡るような、適度な湿り気をこの本から与えられる。

『霧のむこうに住みたい』このタイトルがいい。

ほんの数ページの短いエッセイ集。

ゆっくり反芻しながら味わっています。

お昼を食べながら、『雨晴ライブカメラ』にチャンネルを合わせると、

嘘~~~!立山が見えてる!

すぐ外に出てみると、妙に生暖かい風の向こうに立山が姿をあらわしている。

黒い雲が空を覆うようにしているのだけど、立山の上だけが黄金の光りを受けて輝いている。

この生暖かさは雨がくる・・・

急いで昼食を終え、雨晴と反対方向に車を走らせている途中で雨が落ちてきた。

雲の動きも早い。

立山全景を見たいから、もうちょっと待って・・・

 

 

いったい立山が見えているのだか、違う山なのかわからないけど、 

なんとか拝むことが出来た。

帰り道、

古城公園の街路樹は八重の桜が咲き乱れ、地面に濃いピンクの帯を作っていた。

園内に目を向けると、木々が雨に煙っている。

須賀敦子の本の表紙のように、古城公園が重い湿気の霞の先に幻想的な姿を見せている。

桜は花びらを落とし、低いトーンの葉を纏い始めている。

私は北陸の湿気が嫌いだ。

毎日毎日、低く重い空。

春の晴れた日でも太平洋側の快晴の60%引きの太陽。

金沢へ行った日も天気予報は晴れだったけど、

「弁当忘れても傘忘れるな」の言葉通り折り畳み傘を携えて行った。

お掃除をしても、1年中ジメジメして家の中はスッキリしない。

でも、

そんな湿気がこんなしっとりした風景をもたらしてくれている。

こんな風景を身近に得て、この本を読めることをありがたく思う。

本は心に潤いを与えてくれる。

便利とか便利じゃないとか、

損とか得とか、

そういう現実の合理性から目を反らさせてくれる。

そして簡素なのに上品。

いや、簡素だから上品。

「彼女はナタリアのこの服装をなにかみすぼらしいように書いているのだが、

私の見たところでは、どれもとびきり上等の素材のものであり、

そのことについても、私は安心したのである。」

本の中にこんな一文があった。

須賀敦子の文章がそうだと思う。

地味なようで人々が生き生きし、そっけない物言いにも上質を感じる。

やはり私は女性の文章が好き。

機能性だけじゃ生きてゆけない。

春がまたお隣から届いた。

袋を開けた時、山の匂いが広がった♪こごみです♪

さっと茹でて冷水でしめて、いい色。

 

胡麻和えと、天ぷら。

ついでに、インゲンと人参とアスパラも天ぷらにしよう。

 

 野菜って、いかにも身体に優しい色しているなー。

潤いある生活って感じがして、ご機嫌な1日なのです。